昔ながらの日本の家は、夏場も涼しい造りになっています。
その反対に、冬場は残念ながら寒いことが多いのですが、
徒然草にも第55段に「家の作りやうは、夏をむねとすべし」と記されており、
「冬は、いかなる所にも住まる。暑き比わろき住居は、堪へ難き事なり。」
といいますから、当時としてもやはり高い湿度も相まって、
この国の夏は耐え難かったのだといえるでしょう。
さて、古民家にはそうした先人たちの知恵が詰まっており、
その中のひとつとして軒の深さも挙げられると思います。
軒というのは「屋根の外壁から外側に出ている部分」を差し、
雨が直接建物に当たることを極力防ぐという働きがあります。
しかし、それだけではありません。
先ほどの夏の暑さを緩和するために、大きな働きをしてくれているのです。
夏場の太陽は南中高度が高くなります。
太陽はほぼ真上から地面を照らしますので、軒の出が深いことで
家の中はもちろんのこと、そのすぐ外の地面にも影をつくってくれます。
また、昔ながらの屋根は瓦を土で留めていましたから、
その土が空気を含み断熱材としての働きもしてくれていたといえます。
それに比べて、現代の住宅では大きな軒を造っている家は少なくなっています。
屋根を大きくすることで建築コストがかさみますから、
軒や庇といった日光を遮るものが少なく、小さくなっているのです。
つまり、それ以外の部分で日射を遮ることが必要になるため、
遮熱ガラスにしたり、断熱材を入れたりと必死の抵抗をしている、という訳です。
新しく家を建てるということであれば、やはり現代の建築の考え方が主になるとは思いますが、
せっかくリフォームをして日本家屋に暮らすというのであれば、
先人たちの知恵は上手に活用させてもらいたいものです。
さらに吉田兼好が「冬はなんとかなる」と切り捨てていた部分を
最新の断熱材や床暖房などの設備で補い、
今では快適な住まいにすることも可能になってきました。
故きを温ねて新しきを知る…
まさにそういう暮らしが現代の古民家なら実現できるのかもしれません。
Kousuke Kitamura
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